恋と窓シリーズ------恋と窓の進化形 -10,000hit 記念-
恋と窓シリーズ
恋と窓の進化形 -10,000hit 記念-
05
耳にキスされて、クンと喉が鳴った。叶の頬を押しやって抵抗するけれど、アソコをぐりぐり擦りあげられて堪らなくなる。
俺はそれに反発するように必要以上に声を荒げた。
「して欲しいことって――っ! だったら今すぐ放せっ!!」
「本当にいいの? 放しても?」
「ず、ずるいだろっ。そんな言い方――!」
次から次から涙が溢れて、ぎゅっと握った拳に顔を埋めた。体が自然に小さく屈まる。それを叶が腕や頭ごとひっくるめて抱き寄せてきた。
「ごめんね、晴季……。さっき陣野君に言われたことが身に染みたんだ……」
嫉妬するなとか、優しさにつけ込むなとか――? だから、受動的に……。
「なんだよそれ…っ」
「だって、今まで晴季から誘われることがなかったから――」
「そんなの今さらだっ」
今まで何度も抱き合ってきているのに、ここに来てたったそれだけのことで戸惑ったって――? 俺をそんなことのために振り回したのか、叶……。馬鹿にするにも程があるっ。
「うん、そうだよね……。だから……、さっきお風呂で晴季に洗ってくれって言われて動揺した」
「それは……」
―――風呂に誘われたのが嫌というわけじゃなかったんだ……。
てっきり陣野のとのことから拒否されたと思っていた俺は、怒りで湧き立つ気持ちを少し抑えた。
「慣れてないものだから、ついまた晴季の気持ちを無視して強引に押し倒しそうになったよ」
叶はさらにごめんと言って困ったように笑った。俺はそれを咄嗟になんとも言えず見つめる。
本当に今さらだよ、叶。今まで確かに強引なところはあったし、うまく言い包められて流されるようにベッドに入ったことも何度もある。けれど、俺は嫌だとは口にしても本気で叶を拒否したことがあったか……? 一度だってない。言葉よりも態度で示してきたつもりだったのに、それが叶に伝わっていないことに俺は酷く落胆した。
「俺は別に……」
構わないとも、気にしていないとも言えたけれど、俺はなんとなく口ごもった。
強引に抱かれるのは嫌ではない。その勢いが時によって叶の気持ちと比例しているようでうれしく思えるから。だが、無理やり入れられたローターのことを思えば、単純にそうとは言えなかった。
「でも、さすがに、その……、お、玩具は困る」
俺がどもりながら言うと、今度は艶っぽく笑われた。徐々に叶の顔から翳りが消え、瞳に力強さが生まれる。
「わかったよ。玩具はベッドの上だけにしようね」
「か、かなえっ」
――まったく、ああ言えばこう言う……。
ついさっきまで涙を浮かべて落ち込んでいたはずが、柔らかいのにどこかふてぶてしさのある、独特の叶らしさを取り戻していた。
「それから、陣野君のことだけれど……」
火照らせた顔で睨んでいたら、不意に叶の表情が真剣に変わった。俺の顔も自然と引き締まる。
「自分の中で折り合いをつけるのはまだ難しいかな……。でも、僕が心配することはないというのは理解したから」
理解したって……。
「でも、それじゃあ」
頭では分かっても、心はそうじゃないと……。
「そう、晴季のことを全面的に信用していることにはならないよね」
「……やっぱり」
少し浮上していた気持ちが再び重く沈む。俺を労わるように、抱き締められる腕に力が入った。
「でも、努力はするよ。あれだけ際どいシーンを見せつけられたんだ……、卑怯な言い方だけれど、僕の身にもなって」
「それは……、ごめん。俺も軽はずみだった」
もし俺が、叶と他の誰かがベッドで抱き合っているのを見たとして、叶以上に冷静でいられる自信はないし、叶のことを許せないかもしれない。そう思えば自分の浅はかさに腹立たしくなる。
「そもそも、晴季がそんな風になったのは僕のせいだよね。変に嫉妬に駆られて晴季に枷を付けるようなまねしなければよかったんだ。それこそ晴季を信じられなかった僕が悪い。本当に悪かった」
「……うん。でも、俺もごめん」
俺の首元に顔を埋めていた叶が少し体を起して、額の髪をかき分けキスを落とした。
「これで仲直りできるかな」
「うん。あ、あの……」
「ん?」
大方、叶に対する不信感や罪悪感は消え去ったけれど、俺はまだ心の中にわだかまっていることを口にした。
「さっき……、その…」
「うん」
「ナ、ナカ洗ってもらってるとき」
「ナカ?」
「な、なんで途中でやめたのかと……」
俺は顔を火照らせて俯いた。言いたくはなかったけど、どうしても気になる。あの時、目でもっとしてくれと訴えたつもりだし、それに叶は気づいている様だった。ただ単に動揺しただけでやめてしまうとは男だったら考えにくい。
「晴季、あのとき無理してたでしょ」
「え」
「少なくとも僕にはそう見えたから。だって晴季ってばとんでもなく悲壮な顔してたしね。だから僕に気をつかって無理して体を洗ってくれと言っているように僕には見えた」
自分のためにも叶のためにも良かれと思ってやったことが無理している風に見えてたとは……。特にあの時は必死だったから余計そう見えたんだろう。
結局、自分のせいで叶を惑わせて、尚且つ自分勝手に叶の気持ちを誤解して……。自分のあまりの不甲斐なさに、俺はがっくりと項垂れた。
「確かに……確かに言葉にするのは戸惑ったけれど、俺、してもらうのはぜんぜん嫌じゃなかった」
叶が無言で俺の心を読み取ろうとするばかりにじっと見つめてくる。俺も逸らさず見つめ返した。
「だって叶だよ? 陣野には抵抗しても……、叶は特別だから」
「特別?」
俺は目を見つめたまま頷いた。改めて口にして、その言葉が胸にすんなりと納まる。中学でつき合うことになるずっと以前から、俺の中で決まっている叶の位置。
「そっか…」
「…おかしいかな」
「ううん、うれしいよ」
叶は言った通り心底うれしそうな顔で微笑むと、改めて俺の体をぎゅっと抱き締めた。胸にあたった耳から叶の鼓動が聞こえてくる。少し早目の心拍数。
あれ、この速さのときって……。
不意に叶のからかい含みの声が降ってきた。
「さてと、今は動揺も納まったことだし大丈夫だよ?」
「……なにがダイジョウブ?」
「なにがって…、ほら……」
「ぅ、ぅぁ」
叶は自分の下着を下げて直接俺のに宛がった。お互いのが擦れて時折ビクビク跳ねる生々しい感触が直に伝わってくる。
「これからどうしてほしい? 晴季……」
そう言った顔に反省の色はとうに無くなり、欲情が濃くなっていた。
わだかまりが解けたからって、もう……?
「どうって……っ。さ、さっき、陣野に言われて身に染みたって」
「うん、そうだよ。でも僕がうじうじしてても却って晴季に気をつかわせてしまうみたいだし……、だったら晴季にちょっと強引でもどうして欲しいか詰め寄った方がいいかと思って」
腰を動かしていないのにもかかわらず、脈が波打ってヒクヒクと痙攣する。
「こ、こんなの……っ」
その浅ましさが情けなくて、きゅっと目を閉じると涙が舞ってハタハタ頬に落ちた。
「晴季……はやく」
顔に散った雫を叶がひとつひとつ舐めとってゆく。
「い、言えないっ」
「なんで」
「言えって言われて言えるもんじゃ…!!」
「でも、言わなかったらこのままの状態でイッちゃうよ? べつに僕はそれでも構わないけど」
「ぅあ…」
叶がさらにぐいとアソコを押しつけてきた。先からは透明な汁が溢れ、それが絡み合って叶が動くたびヌチャヌチャ卑猥な音を立てる。
「ゃ、ゃ、ゃあ」
「いやじゃなくて、ほら言って?」
「ゃ…」
「……今日の晴季はわがままだなぁ。だったら……、僕がこれからいろいろ気持ちイイことをしてあげるから、ヨかったらちゃんと頷くんだよ? いい?」
そう言って叶は俺の耳をねろりと舐めた。舌の動く音が皮膚から鼓膜へとリアルに伝わって俺は思わず身を引いた。けれど、耳が弱いと知っている叶は逃げる俺を追ってさらに耳の後ろへと唇を寄せてくる。
「これはいやじゃないよね?」
吐息まで聞こえる近さで囁かれて、腰にずくんと痺れが走った。ただの囁きで体が反応してしまうなんて、どれだけ叶という存在に俺は慣らされているんだろう。この先ずっと叶とセックスを続けていけば、いずれ傍に居るだけで濡れてしまうようになるんじゃないかと、不意に怖くなった。そう思えばついつい逃げ腰になって、俺は半ば無駄だと思いつつシーツを手で引っ掻くようにしてよじ登る。
「晴季、動いたらダメだよ」
快感で力が入らない腕では到底叶に敵うわけもなく、俺はあっけなくその腕に捕らえられてしまう。
「こ、こわい…」
「僕が? それとも感じ過ぎて?」
またもやじんわり涙が溢れる。今日の叶はいつも以上に意地悪に感じる。陣野に咎められ反省したようなことを言っていたのにもかかわらずだ。
「さっきから質問ばかりで、おれの言うことぜんぜん聞いてくれないっ」
「そんなことない。ちゃんとどうしてほしいか聞くって言ったでしょ?」
「やめてって言った!」
「本心じゃないのはわかってるよ」
やっぱり言っても無駄じゃないか――!!
俺は出来うる限りの強さで叶をギッと睨んだ。でも、俺の意に反し叶はふんわりと微笑む。それが、まるでここにある全ての幸せを包み込んだような笑顔で……。
「あ……」
呆となって叶を見つめる。
「どうしたの。晴季?」
「……やっぱりズルイなぁ」
「ん?」
小さく声をあげて固まった俺に、やはり叶は微笑みながら首を傾げた。
叶はいつもこうだ。昔からずっと……。いつもそうやって、無意識に俺だけにしか向けない特別な笑顔を、不意打ちのようにやるんだ。それがいつも絶妙なタイミングで、俺はそれだけで戦意や怒りを喪失してしまう。
俺はガバッと叶に抱きついた。
笑われようが現金だろうがもういい。俺は叶のこの笑顔に弱いのだから。それに元々叶のすることに文句はない。困ることはあっても叶だから今まで何されたって許容してきたし、それはずっと変わらない。俺が叶のことを大好きな限りはぜったいに。
「もういいよ…」
「晴季?」
「俺は……、俺は叶には敵わない」
叶はちょっと驚いたように目を見開いた。そしてまた、あの俺の大好きな笑顔でふわっと目尻を綻ばせた。
「僕に抱いて欲しい?」
「うん…」
「なにしてもいい?」
「うっ……」
なにをしてもいいなどと、そんな空恐ろしいこと……。返事に困って叶を見れば、叶はものすごくうれしそうに、期待してますなキラキラな瞳で俺を見つめ返した。
そんな期待されても―――。
顔が引きつりそうになるけれど、でも叶にはやっぱり敵わなくて……。
あとはもう……自然と頷いていた。
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