恋と窓シリーズ------恋と窓の進化形 -10,000hit 記念-
恋と窓シリーズ
恋と窓の進化形 -10,000hit 記念-
02
陣野の手はますます調子に乗ってボタンどころか、さらにはジッパーまでも一気に寛げる。そして下着のゴムを押しのけられ、固い性器が上に跳ね上がった。突如ひんやりとした外気に晒されて体がビクンと震える。
極度の倦怠感に陣野を遮る力もなく、俺はただ手元にあるシーツを握って耐えた。
「こりゃ辛いはずだ……」
スルッと裏筋を撫でられ、瞳を覗きこまれる。
「……っ!!」
「晴季。今から後ろに入ってんの抜いてやるから、そう強張るな」
「じ、じぶんで――」
「そんなフラフラでできるワケないだろ」
「でもっ」
「それと、後で風呂場に連れて行くから、悪いがこっちは自分で処理してくれ。大丈夫、もう前は触らないから……。だから、泣くな」
涙なんか出てないのに―――。
「……ぅ…っ」
陣野がそんなこと言うから、みるみるうちに涙が盛り上がって滂沱として流れ出す。悲しくもないのに、情けなさと恥ずかしさが胸を切迫して、一度流れ出すと止めどなかった。
「これはセックスじゃない、ただの作業だ。わかったな?」
陣野はそう宥めるように言って、今度は袖ではなく手のひらで優しく涙を払ってくれた。
それからの陣野はもう、まるで心を失ったかのごとく淡々と俺に触れてきた。ベッドの上に並んで横たわった陣野は俺のジーンズと下着を一気に引きずり下ろすと片足を腕に抱え上げる。そして、俺の口のなかに自分の指を突っ込んできた。
「な、なに…」
「本当は舐めた方が緩みやすいんだがそうもいかないし、指で広げるからとりあえず濡らしてくれ」
なんてことはないだろうという風にさらっと言われる。こっちは今にでも逃げ出したい気分でいるというのに、陣野は「ハイ、手術を始めます」とでも言っているかのような素っ気なさだ。
………これが終わったら、指でやってくれてありがとうとでも言うべきなんだろうか。
本当に手術でも受けるような心境になってしまい、俺は陣野を恨みがましく睨んだけれど、無言でかけられる視線の圧力に、仕方なく突き出された指を舐めた。
セックスじゃないはずなのに、最中のような音が響く。それに体の奥から聞こえる卑猥なモーター音も合わさって………。
まったく陣野はこれを聞いて何も思わないのか。――いや、思われたところで困るのは俺だけれども………。
クチュクチュ卑猥な音を立てながら必死になって舐め上げ、粗方陣野の指がふやけたところでやっと指を抜かれた。
ほっと息を吐く。まるでフェラでもした後のような気分だ。
「……ぁっ」
さらに疲れが増して脱力した途端、後ろの襞をぬるっと撫でられる。皺を伸ばすように円を描いて中を探ってきた。叶のとは違う感触に体が硬直する。耐えるように陣野の肩に手を置きシャツをきゅっと握りしめた。
「体の力抜いて……。奥まで届かないだろ」
「っ……!」
そんなこと言われたって―――!!
俺が不満げに陣野を見れば、中に入れた指を折られた。イイところを当てられて首が大きく仰け反る。それを陣野は無理に引き寄せてキスをせがんだ。
「ちょ……んっ」
「舌出せ」
出すか!! と心の中では反発できても体は言うことを聞かない。束の間の攻防の末、陣野の舌が唇を割って入ってきた。
――無駄に気持ちイイ……。
叶とは違って口の中を荒々しく舌が動きまわる。体の力が抜けたところですかさず陣野に指を奥まで入れられた。
「ぅああっ」
「……これか」
陣野が玩具を指で探り当て、俺の中でブンッと唸りを上げる。あまりの快感に思わず俺は唇を外して陣野の首元に顔を伏せた。
「や、やだぁ…」
陣野の指がぐりぐり中を弄りまわす。その度にローターが変則的に動いて気が狂いそうだ。
イキたい! すぐにでもイキたいっ!!
そうは思っても陣野の前でこれ以上の醜態も晒したくない。少しでも陣野の指から逃れたくて、腰を上へ上へと動かす。
「動くなよ」
「む、むり…!」
「晴季」
咎めるように言って、いきなり陣野は俺の腰を力強く引き寄せた。そしたら俺の勃起が陣野の腹当たって……。
「う、うぁぁぁっ」
一気に快感が頭まで駆け上って、思いっきりイってしまった。
「晴季……」
陣野の戸惑った声が聞こえたけれど、言い返す余裕なんてない。俺は茫然と天井を見るばかりで何も言えず、ぜぇぜぇ荒い息を吐いた。
けれども無情にもローターの動きが止まるわけもなく、ピクピクと感じて動く体は浜に打ち上げられた魚のようだ。悪いと陣野に気まずそうに謝られても、俺はぼんやりするだけ反応できなかった。
「……いったん抜くぞ」
指が窄まりを押し広げて出ていく。
起き上った陣野に視線をやると、辛うじて難を逃れたジャケットと精液に濡れたシャツを脱ぎ去った。同時に綺麗に筋肉のついた肌が現れる。陣野は部活をしていなかったけれど、ハードなバイト生活のせいかイイ体つきをしていた。
「あんまりじろじろ見るなよ」
陣野は男っぽく顔を顰めて、俺の瞼の上に手を被せた。
「晴季、ちょうどいいからこのまま眼ぇ閉じとけよ。女のことでも考えてればいい」
なぜだか少しセクシャルに言われて胸がドキリとする。
眼を伏せられたまま陣野は俺を抱き寄せた。改めて今度はキスから始められる。さっきのキスで若干開き直った俺は陣野の舌を素直に受け入れた。
不思議なキスだった。
陣野は俺のことを特別友人としか思ってないはずなのに、心がこもってると分かるそんな温かさがあった。陣野ってきっとこんな風に恋人を抱くんだと頭の隅で思う。シングルマザーで苦労しているお母さんのことをずっと支えている陣野のことだ、たぶん女に対しては男以上に優しく接するんだろうな……。俺にさえこんなにも甘いのだから。
「集中しろ」
銀色に光る唾液を舌で引きながら陣野は俺の腰を抱き込み背中をさわさわとさすり始めた。時折下の方まで腕が伸びて、尻の周りを遊びながら背骨を指先で辿られる。
急激な快感じゃない、ゆっくりと煽られて体がとろんと溶けてゆく。
それを敏感に陣野は感じとったのか、遊んでいた指が中に滑り込んで来た。それは自然な感じで異物感は否めないけど、気持ち悪さとかそういった具合のものはなかった。
「ん、んんっ…」
再び口を塞がれて、鼻からくぐもった声が抜けてゆく。自分でも信じられないような甘ったるいファルセット。でも、それでさえ快感の一部になった。
「けっこう奥までいってるな……。晴季、腹にだけ力を入れてみてくれ」
無茶な提案に、それでも素直に腹に少し力を入れてみる。
「ふ…っ」
「その調子……、届いた」
コンッと陣野の指先がローターに当たって外へと導き出される。
「ぁぁぁ」
中の感覚とブブブという細かな音が近づいて、徐々に出て行くのをリアルに感じる。
やがて、出口間近となって―――、
「うっああああ!!」
感覚の鋭い部分に震動が直接当たって、腰がガクガクいやらしく動いた。
「もうちょっとだから、我慢しろっ」
「はやくっ、はやくぅ」
「もうちょい……」
そこに至って陣野は指を二本に増やし、器用にローターを挟み込む。圧迫感に喉がグッと鳴った。
「じ、んのっ」
もう耐えきれないと切羽つまったとき、タマゴみたいのものがぬるっと滑り出る。
陣野が溜め息のように言った。
「―――取れた…」
その声に終わったんだと心で実感する。体の方はまだ快感の余韻を残していて、やっと取り除かれたという安心感も相まって、言いようのないダルさが体中に圧し掛かった。
けれど心配そうに向けられる瞳に微笑み返す。
「大丈夫か」
「……ん、ありがと」
陣野は身を起すと、ローターを俺に見えないようにして、捨てた。アルミでできたゴミ箱が何かにぶつかる甲高い音が聞こえて、それを知る。
陣野が俺に向き直り、額に落ちた髪を横に撫でつけられた。
「つらそうだ」
「……少しだけだから…」
照れくさくてフイッと顔を逸らす。けれども髪をすく柔らかな手の動きは止まない。俺は瞼を閉じてじっと陣野のされるままになった。
「晴季……」
「…なに?」
自分を呼ぶ声にうっとりと答える。けれど、なぜか陣野の慌てる気配がして、自分の身体の上にシーツの感触が覆いかぶさった。
不審に思って陣野の視線の先を見ると―――、そこには叶の茫然とした姿があった。
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