恋と窓シリーズ------恋と窓の位置関係10

恋と窓シリーズ

恋と窓の位置関係10

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抱き合いながら少しまどろんだ後、叶は慎重にハシゴを伝って自分の部屋に戻って行った。一度壊れたハシゴをまた使うというのは見ているだけの俺にとってハラハラもので、怖いからやめてくれって頼んだんだけど叶は『これで最後だから』ってとり合ってくれなくて。
結局叶が部屋に着くまで手に汗を握りながら見守った。
「なんにもしてないのに、すんごく疲れた……」
叶を窓の向こうに見届けた途端、もう脱力。ぐったりとその場にへたり込んでしまった。
あれだけ窓伝いに来てくれなくなるのは嫌だなんて言ったけど、こんな心臓に悪いもんなんだと分かった今となると、叶がもう最後にするって言ってくれてかえってよかったよ。窓から行き来できなくなったのは残念でも、やっぱり叶の命には変えられないよな。
ほっとため息を吐いたところで、玄関のドアが開いた音が微かに聞こえてきた。
「ただいまーっ」
母さんの声が聞こえてくる。買い物から帰ってきたみたいだ。いつもより遅いなと思いつつ下へ降りて行った。
「おかえり。遅かったんだ」
「うん。お腹すいたでしょ? ごめんね。スーパーで康代さん(叶のお母さん)につかまっちゃって。すぐご飯の支度するわね」
康代さんに会ってたんだ…。
「なにか言ってた?」
「え?」
「康代さんだよ」
「うん…、心配してたわよ? 晴季のこと」
「心配?」
「そうよ。だって事故のあと叶くんのところに行ってないでしょ?」
「だって、それは……」
会ってどんな顔をすればいいのか分からなかったから――。
俺は口を噤んで視線を逸らした。
でも……。
「まだ、康代さんに顔を合わせられない?」
俺はぶんぶん首を横に振った。
「ずっとこのままっていうわけにもいかないわよね」
母さんに顔を覗きこまれてこくんと大きく頷く。
「俺、康代さんに謝りに行こうと思うんだ」
このまま康代さんに謝らないままじゃ、叶の部屋に堂々と行くことなんて出来ない。
意気込んでそう言ったら母さんの顔がにっこりになった。
――なぜ今にっこり…?
不思議に思ってると、今度はすこし悪戯っぽく横目になって微笑まれた。
「やっといつもの晴季に戻った」
「えっ?」
いつもの俺って――?
「ここのところずっとしょげてたじゃないの」
あっ…、そっか……。
「だって…」
「よかったわ、やっと浮上してくれて。晴季は叶くんのことで頭がいっぱいだったかもしれないけれど、母さんも晴季のことずっと心配してたんだから」
軽く睨まれてドキッとする。
「ぇあ、あー、うー…」
「なぁに?」
「……ごめん」
ボソッと謝ったら「仕方ないわねぇ」って言われてさらに笑われてしまった。
「でも許してあげるのは康代さんにちゃんと謝りに行ってからよ? 康代さんは『晴季くんは悪くない』って言ってくれてるけど、晴季は自分が悪いって思ってるのよね? だったら謝らなくちゃね」
母さんが両手を腰に当てるっていう、よくやるポーズをとった。怒ったり励ますときによくそうするんだ。笑顔の今は……、怒ってるんじゃなくて励ましてくれているんだよね。
俺は母さんに笑みを返した。
「うん。ありがと、母さん」
「一つ貸しね。お返しに何をしてもらおうかなー。肩揉みしてもらおうかしら、それとも買い出しがいいかなー」
「アハハ…」
楽しげな母さんを見上げながら俺は空笑いを漏らした。
そして、ほっと息をつく。
そういえば、母さんもここんとこちょっと元気なかったな。溜め息も多かったような気がするし……。自分の知らないところで迷惑かけちゃったよ。思えば叶に対してもそうだった。俺がちゃんと叶に向き合ってれば傷つけなかったもん。やっぱり気持ちを言葉にするって大切なんだ。
俺は今まで母さんに心配かけたお詫びとお礼を込めて、「こうなったら、なんでもやるよ!」って言ったら、母さんはすごくうれしそうに笑ってくれた。
「そのまえに、晴季には大仕事があるわよね?」
「うん。まずは謝りに行かなくちゃ」
俺はやるよっていう意志を込めてまた力強く頷き返した。

それからすぐにでも叶の家に菓子折り持って行きたかったけど、もう夕飯の時刻で遅かったから明日にすることにした。
でも、なんか不安だな……。
いつもよりちょっと遅い夕飯を食べた後、俺はベッドに寝転がって明日のことを考える。
事故の直後は俺も気が動転してて謝るどころじゃなかったから、康代さんも俺のことを気づかって「叶の目が覚めたら、心配したんだぞって一緒にいっぱい文句言わなくちゃね」なんて陽気に言ってくれてたけど、実際はとっても康代さんの方がすごくすごく心配だったと思うんだ。
叶が助かって本当によかったけど、やっぱり窓のことは怒られて当然だよなぁ……。でもでもっ、なんて言われてもがんばって謝って、叶と窓からは無理でも今まで通り会えるようにしてもらわなくちゃ。
俺はどう康代さんに謝ろうか頭の中でうんうん考えて冴えてしまった頭を抱えながら、それでも無理やり眠ろうとキュッとまぶたを閉じた。

翌日の放課後――。
「ごめんなさい!!」
俺は康代さんと目があった瞬間、ブンと頭を下げた。
ここは叶の家の玄関先で、中に迎え入れてくれた康代さんと二人で向き合っている。心配した母さんがついて行ってあげようかって言ってくれたけど、もう中学生だし母さんの付添なんて恥ずかしいし、それよりも一人で行った方が康代さんも俺のこと怒りやすいんじゃないかと思って一人で来た。
今いっぱい怒られてなんとか許してもらわないと……。
そんな打算もあったから。
俺が康代さんの目の前で地面と向き合って一秒二秒と時間が過ぎる……。けれども康代さんは何にも言葉をかけてこない。
どうしたんだろう。怒りがこみ上げ過ぎて言葉も出ないとか――?
ちょっと不安になって、ちらりと視線を上げたら、康代さんは目を点にして俺のことを見下ろしていた。
「あ、あの…」
居たたまれなくなって声をかけると、康代さんは急にアハハッと笑い出して自分の手を俺の肩にバンと置いた。
「や、康代さん?」
「ぜんぜんウチに来ないなと思ってたら、わたしが怒ってると勘違いしてたのね?」
「……ぇあ、あの、そのぅ…」
「フフッ、やっぱりそうなんだ」
「う、うん…。か、叶が落ちちゃったのって俺のせいでもあるわけだし……」
「確かに窓を使って遊びに来てたのは感心しないわね」
「ご、ごめんなさいっ」
「け、れ、ど! 前にわたしが言ったこと忘れちゃった?」
康代さんは咎めるようにちょっと俺を睨んだ。
……忘れてない。康代さんが言いたいのはたぶん、叶が無事だと分かった後に言ってくれたあの言葉だ。
晴季くんは悪くないよっていう――。
「……でも…」
「ちゃんと覚えてるようね。そうよ、あれは叶が悪かったのよ。晴季くんはあのとき出来うる限りのことしてくれたじゃないの」
俺は首をふるふる振った。
「俺、なんにも出来なかったよ。ただ叶の名前を呼んでただけだ」
「それがよかったの。その大声のおかげでわたしも晴季くんのお母さんも叶が落ちたと気づけたんだから。現にそれで叶は助かったのよ?」
「……うん」
「それともわたしに怒ってほしかったの?」
「え? そ、それは……」
「ざーんねん。そう簡単に怒ってやーらない」
康代さん、楽しそうなんだけど……。
俺はそんな康代さんを見て眉を下げた。
怒ってくれないってことは、自分で反省しなさいってことだよな……。どうしたらいいんだろ……。
俯いた俺に康代さんが優しげな声で話しかけてくる。
「でも…、窓の出入りに関しては怒ってもいいかもね」
「うん…」
「それさえしなければ落ちなかったもの」
「…ごめんなさい」
俺は言いながら頭を下げる。でも康代さんは……。
「とりあえず、その言葉は受け止めたわ。でも、簡単には許してやらない」
俺はえっと目を瞠った。そして、まじまじ康代さんの目を見つめる。
さっきまでとは違って真剣な眼差しだった。
「本当に許してあげるとすれば、それは晴季くんと叶がこのさきずっと品行方正にしていたあとね。意味分かる? これから成人するまでいい子で仲良くしていられるなら、そのときになって初めてわたしはあなたたちを許してあげるわ」
俺の目にジワッと涙が浮んだ。
それってやっぱり俺たちのこと怒ってるんじゃ……。簡単には許してくれないとは思ってたけど、俺が思ってたよりもずっとずっと大変かもしれない。
康代さんは思い悩む俺をしばらく観察するような目で見て、そしてまた悪戯っぽく笑った。
「というのは半分冗談で、まぁ、事故にあった当初はすこしそんなことも考えたけど、今はそこまで意地悪には考えてないわ。叶もそうだけど晴季くんもちゃんと反省してるみたいだし……。それにね」
康代さんはちょっと息を吐いてまた口を開いた。
「病室で目覚めてすぐくらいに言われたの。叶がわたしに晴季くんは悪くないって、落ちたのは全部自分のせいだからって」
「え…」
「だから、そのときにわたしの怒りの対象から晴季くんは外れているのよ」
「でも…」
「そうね。晴季くんの言いたいことは分かる。だから、さっき連帯責任のようなことを言ったの。もし、晴季くんも今回のことに責任を感じると言うのなら、これから叶とつき合うに当たってわたしたちに心配をかけないように気をつけてほしい。それが本当の償いとか反省っていうものでしょ?」
「…うん」
「わたしたちっていうのはもちろん、晴季くんのご両親も含まれているのよ?」
「うん」
康代さんは俺の顔を覗き込んだ。
「昨日ね、晴季くんのお母さんと話してたんだけど、今はあなたたち二人がつき合ってゆくのを静観しましょうって……。意味分かる?」
「あの……、よく…」
「晴季くんはパニックになっててよく覚えていないかもしれないけれど、晴季くんが大声で叫んでいたとき裸だったでしょ」
あのときは叶とエッチなことしてて確かにほとんど何も着てなかった。でも車で病院に向かうときはちゃんと母さんに服を着せてもらって……。
俺はバッと勢いよく顔を振り上げた。
ま、まさか、見られた――っ!!!
愕然とした俺の様子に、康代さんは静かに頷き返した。
「気づいたみたいね。叶と晴季くんて……、そういう関係なのよね」
……やっぱり体中にキスマークあるの見られたんだ。
「お、おれ……」
「叶にも問い詰めたわ。そしたらあの子、僕と晴季を引き離さないでくれって泣きそうな顔でとりすがってきた」
「叶が――!」
「でもね、簡単にはあなたたちの関係を認めるわけにはいかない。世間的な目もあるし、後継ぎのこともある。なによりもあなたたちが苦労するだろうことは目に見えているから」
康代さんの言葉に胸が押しつぶされそうになる。改めて叶のことが大好きだって気づけたばかりなのに、やっとお互いのことを理解し合えたのに……。
「だから……反対するの?」
涙が溢れそうで、それをぐっと堪えながら怖々言った。康代さんの顔をまともに見れなくて、今は涙でぼやけた視界がちょうどいい。
「いいえ、静観よ。反対することはないけれど認めもしない。今はただ見守ることにしたのよ。あなたたちの持つ恋愛感情は一時的なものかもしれないし、これから先、もしかしたら他の誰かに気が移ることもあるかもしれない。それでも二人の関係がずっと続いたのなら、そのときになって初めて家族をひっくるめて考えようってことにしたの」
「……やっぱり、簡単には許してもらえないよね」
「ねぇ、晴季くん。叶とつき合いだしてどれくらいなの?」
「えっ? えぇと…、一週間くらいかな」
キスしたのはもっと前だけど、好きって言ってからはそれくらいだったはず……。
俺がどぎまぎしながら言うと、康代さんはきょとんと固まって、それから心底おかしそうに笑いだした。
「や、康代さんっ?」
「は、晴季くん。まだつき合いだしてホヤホヤじゃないの!」
「そうだけど……?」
俺は訳が分からずお腹を抱えて笑う康代さんをただ茫然と眺める。
ぜんぜん笑いやんでくれないんだけど……。俺なんか変なこと言ったのかな? それともただ単に笑い上戸……?
あれこれ考えても分からなくて、俺は康代さんが笑いやむのをちょっとだけうんざりと待った。……いつの間にか涙も引っ込んじゃったよ。
しばらくヒーヒー笑った後、やっとそんな俺に気づいた康代さんは無理やり笑いを納めた。
「ハァ…。ごめんなさいね」
「……別にいいけど」
「二人のことだけど、とりあえずデートに窓を使わないこと! いいわね?」
「デデッ、デートって!!」
「充分デートじゃない。わかった?」
「……わ、わかったよ。約束する」
叶そっくりな笑顔で康代さんの口がにっこりになる。俺もちょっとうれしくなって、康代さんに負けないくらいにっこり笑い返した。
俺、ちゃんと約束するよ。窓のことはもちろんだけれど、康代さんや母さんに認められるように、叶と二人でごめんなさいを態度で伝え続けるから。叶とつき合うってことも真剣に考えてみる。叶となら、叶とだから、がんばってやっていけると思う。
いつか許してもらえるように、認めてくれるように――。
俺は叶の部屋がある三階に向かって、心の中でそう誓いを立てた。


***


俺はいつものように窓際のクッションラグに座って、日課となっている叶とのおしゃべりを楽しんでいる。今日は寒いけど雨は降っていないから、温かいマグカップを片手に暖房ガンガンで窓を全開にしてちょっとしたティータイムだ。

あれから数カ月――。

窓から叶の部屋に行かなくなったというだけで、叶と俺の日常は以前とあまり変わらない。
あ、でも気持ちの変化はあるかな。叶の部屋に行かなくなったというのは、やっぱり俺にとってはちょっと寂しいことだから。
叶としばらくはたとえ玄関からでも部屋に行くのはやめようって約束したんだ。
誠意ってやつ? ごめんなさいを態度で示して行こうっていう、その第一歩ってところ。康代さんも母さんも静観って言っただけあって、ほんとになんにも言わないんだ。じっと俺たちのことを監視じゃないけれど、観察(?)というか、見守ってくれてる。
それって、ありがたいって思うのと同時に厳しいことだとも思う。
信じてくれているからこそ口出しされないんだから、俺たちもヘタなことはできないっていうか――。
そんなこんなで今は窓越しのデートを続けている。それもあって最近チューどころか手もつなげていないんだ。
(はぁ…、叶とくっつきたい)
俺はそっと溜め息をついた。
ほんとはとってもとっても寂しい。
反省していかなくちゃっていう気持ちはもちろんいっぱいあるんだけど、これじゃ長続きしないよ。ていうか、長続きさせる自信がない。それは母さんにも注意されたことで……。
正直、「この数カ月おとなしくしていたんだもん、ちょっとくらいいいよな」っていうのが本音。
それに、叶だって俺と同じ気持ちだよ(たぶん…)!!
だから、そろそろいいかなぁ、なんて――。

「なぁ、叶。明日の土曜だけど休み?」

もう遅いし寝ようかという話になったところで、俺は一階分上に居る叶を見上げて尋ねた。
「うん、明日は休みだよ。久しぶりにどこか遊びに行こうか」
叶がにこやかに俺を見下ろしてくる。
あれから叶は体調も体力も戻して今じゃすっかり元気。そういえば叶ったら『病は気からっていうけど、あれってほんとだね』なんて笑ってたな。
病じゃなくて怪我だったのにさ。
そう言ってやったら、治るスピードが違うんだって言い返された。ほんとかな?
「やった! どこがいいかな」
「そうだね。僕は映画館とか図書館がいいけど……、晴季はつまらないよね」
「そんなことないよっ。叶とだったらどこでもいい!!」
俺が窓に身を乗り出さんばかりに言ったら、叶はクスッと小さく笑った。
「うれしいな。僕も晴季とだったらどこでも楽しい」
「じゃ、明日十時に図書館なっ?」
「あれ、一緒に行くんじゃないの?」
叶は不思議そうに首を傾げた。
だよなー。でも、一緒に行くのもいいけどやっぱり……。
「なんか待ち合わせってほうがデートみたいじゃない?」
「あぁ…、そうだね。たまにはそういうのもいいかな」
「だろ? じゃ、また明日な!」
俺はすんなり明日の予定が決まったことに満足して、おやすみという風に手を上げた。
「うん。おやすみ、晴季」
叶も軽く手を振って窓を閉めようとする。俺はそれを見て「あっ」と言い忘れたことを思い出して、慌てて叶を呼びとめた。
「叶っ!」
叶の手がピクンと止まる。
「どうしたの?」
「あ、あのさ…」
「うん」
「あの…」
俺は呼吸を整えて息を吸った。
「明日、帰りに俺ん家来いよ!!」
「へ?」
叶の顔がポカンとしたものになる。それが意外で珍しくて、俺は思わずプッと笑った。
「だーかーらー、俺の部屋来てもいいよって」
「……いいの?」
「もっちろん! 母さんに頼んだら、逆に夕飯ごちそうするから連れてきなさいって言われた」
「そっか……、そうなんだ…」
言葉を噛み締めるように呟いて、叶はすごく……、なんだかものすごく幸せそうに笑った。
幸せオーラが叶から湧き出ているみたい。
わー…、こんな叶を見るの久しぶりだぁ…。
俺もうれしくなって、ほっぺたがフニャとだらしなく緩んだ。
「エヘヘ…」
二人して照れながら笑い合う。
傍から見たら不気味だろうね。そんなことを言ってまた笑って、おやすみって言ってもなかなか俺たちは窓を閉めることができなかった。
『叶、もう窓閉めろよ』
俺が観念して言っても、叶は『晴季が先に閉めてよ』なんて言うから、ほんとぜんぜん閉められなくなって、結局『イチ、ニのサンッ』で一緒に閉めた。
その後こっそり窓をほんの少し開けて確認したけど、叶はちゃんと窓を閉めてカーテンをも引いていた。ちょっと残念かな……。でも、明日も会えるもんね。
俺はうきうきしながら勉強机に座った。そして、抽斗を引く。
「よろんでくれるかな」
にんまり笑った俺の視線の先には、蛍光(星座)シールが覗いている。それは、前に叶と新しい部屋の天井に一緒に貼るんだと約束していたことを守るために、今日買っておいたものだ。叶の部屋に行けるようになったら貼ろうってずっと心に決めていたこと。
数カ月越しの想い……。
でも、うちの母さんからは叶を呼んでいいって言われたけど、だからって康代さんからもおいでって言ってもらえるかは分からない。
「でもね、叶。俺……」
ちょっとずつでも、叶と前に進んでいきたいって思う。
叶となかなか遊べない日々が続いているけど、ちょっとへこたれそうになることもあるけど、でもそれでも俺は叶と一緒にいることを選んだんだ。傍にいれないからこそ、会いたいって募る気持ちがあるんだってことを知ったよ。
窓が離れたら気持ちも離れるのは違うっていうのを、すごく今、実感してるんだ。傍に居れば居るほど切なくて、離れるほど恋しい。
こんな気持ち、ずっと持ち続けるのかな――?
そう思うと、ちょっと困ったような、うれしいような……。でも、叶とならなんでも楽しく感じるような気がする。
そして俺は、ひっそりと心に決めたもう一つの野望を、決意を込めて呟いた。

「いつか、一緒に暮らそうな。叶…」

それは恋と窓の呪縛から生まれた甘い誘惑。


-了-



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