HAPPY SWEET ROOMT------10 教えてロッセ

HAPPY SWEET ROOMT

10 教えてロッセ

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けっきょく俺は必死の抵抗かなわず、ロッセの手に落ちて何度かイッテしまった。あわせて、つい一週間ほど前まではまったく考えられなかったこの現状に頭がくらくらする。不思議と抱かれることに対する恥ずかしさというものはほとんどなくなったが、ロッセへの気持ちを自覚した今となれば、妙に照れてしまって仕方がない。
それに……、というか、それよりもなによりも……、
「あ、あ、あ、あぁんっ」
今の俺の姿ってどうよと思う。
オトコが四つん這いになって前をブラブラさせながら善がっている図というのは、普通だと見ていて吐きそうになるところなのに、ロッセはなにも思わないんだろうか。俺なら自分のことでもあるし間違いなく食傷もんだよ……。
気になって後ろを振り返れば、少し苦しげだった顔を緩めロッセは微笑んで言った。
「気持ちよさそうな顔だな」
……なーんにも思ってなさそうね。
気持ちよさげなのはアナタの方ですよ。白皙の美貌にほんのり赤みが差して、色っぽくなってますよ。あーでも、こんなロッセ見てたら気持ちがわからんでもないか。腰振るオトコというのはAVでは邪魔だと思うけど、ロッセなら許せちゃうもんなぁ。けっきょくは相手によりけりかねぇ――。
そんなことに気をやっていたら、ロッセがいきなり奥の方まで突いてきて、衝撃にモフッと枕に頭を埋まらせる。
「他のことに気をそらすな」
「だからって……っ」
今朝のロッセはいつも以上に意地が悪い。というか、しつこい。俺を何度もイかせようとするくせに自分はイク様子なくて、何百回前後運動繰り返してんだと怒鳴りつけてやりたくなる。でも、なにか言おうとするたびに突かれちゃ単なる喘ぎ声になるばかりで……。
「し、つこ……」
「――しつこいか?」
わかってんならとっととイケー!!
いつもならロッセに出されると快感が酷くて(ほら、コイツの体液ってビヤクみたいなもんだから)なにがなんだか自分の状況が判らなくなるくらい意識ぶっ飛んじゃうところが、キスされるばかりで(いや、キスだけでもかなり気持ちイイにはイイんだけど)イッテくれないから意識はっきりで、カラダより脳みそガンガン犯られてる気がする。
「ん、んんっ」
「イッテほしい?」
なにその余裕綽々な態度っ!! 処理調節できますよ的なさ!! 上級者って言いたいの!?(ほとんどやっかみ)
「あ、ああっ、ん」
情けなくもアンアンばかりしか言えねぇ。なんも言えねぇ。
「分かった」
「ああああっ」
急にズンズン挑まれて、呆気なくイってしまう。ほどなくしてロッセも追いついて、二人して荒い息を吐いた。
でも、やっとひと段落ついても、俺にとってはこれからがハードで……。
「はああ……」
ロッセが放ったところから決壊したように快感が一気に駆け上った。カラダの末端まで伝わって本当に指先が震えるのは悲しいけどちょっと笑える。
「セイタ」
気遣わしげな声をかけられてもちゃんと反応できない。グイッと顎を引き上げられて唇を舌が割って入ってきた。
「ん……」
だんだん頭が働かなくなって快感を追うばかりになる。飲み切れなかった唾液が頬を垂れ落ちてそれを辿るようにロッセの舌が顎を伝って耳に落ちた。
「大丈夫か」
間近で吹き込まれた低音に脳みそまで痺れそうだよ。
それ以上言わないでという意味を込めて、重い腕を上げてロッセの頭を引き寄せたら「もう気が飛んだのか」とからかわれる。
「バ、カ……」
もしかしたら声帯にまでキテる……?
ぼんやりそんなことを考えていると、ロッセが俺の腕を解いて下に体をずらしてゆく。
あ……それやられるとダメかもー。
案の定ロッセは俺の脚を大きく左右に広げてその間に頭を下ろした。そして、ヌチュッと飲みこまれた瞬間、わずかしかなかった俺の意識はついに途切れた。
ときおり不意に意識が上昇しては落下して――。
フラッシュバックのように復活する意識の合間に見た景色は、例えばロッセの項だったり、股間を擦る手だったり、イキ顔だったり……。なんにしても、あまりの激しさに全ての視界が揺れてはっきりとはしなかった。

実は俺ってものすごく幸せな男なのかもと思う。ココロはともかくカラダの方はこんなにも愛されちゃってるし。あーでも、セフレと言えばそれまでか。片思いの相手がセフレ……。何気に悲劇のヒロイン風だなぁ。

コトを終えた俺はロッセが風呂に誘ってきたのを断って一人ベッドに寝っ転がる。
しかしねぇ、今んとこ好きなんてロッセに言う気ないしねぇ。オトコ同士で好き好き言いあうなど気持ち悪すぎる。それに、ロッセ以外は普通に女の子好きだもん。有奈ちゃんだって好きだしさ。だから、聞こえは悪いかもだけれど、彼女(それが有ちゃんであればなおよし)ができるまでのツナギ的な感じでいればいいと思えた。初めてロッセと寝たとき、ヤツもそんなこと言ってたしさ。
「きーめたっ」
「何を決めたんだ」
「おわっ」
風呂から出たらしいロッセが髪から雫を滴らせながら俺の傍に座っていた。
「ちょ、ちょっと気配消して近づくなって!」
「私はいたって普通に座ったが。セイタが鈍いんだろう?」
「鈍いってー!?」
「で、何を決めたんだ」
……誤魔化されろよ。
ロッセは俺の頭の両脇に手をついて俺を真下に見下ろした。
「い、やー、その……単なる独り言だし」
「単なる、であれば言ってもいいじゃないか」
「あーいやー」
顔を逸らした拍子に額がロッセの腕にぶつかって、その振動で髪の雫の一つが俺の口元に落ちた。わずかに眉を寄せると、すかさず顔を下げたロッセに舐めとられる。
「セイタとの会話がかみ合わないのはスキンシップ不足だということはよく分かった。カラダの方は満足したし、次はココロも親密にするか」
「なぜそうなる……」
顔を近づけたままのロッセが逃さんぞな視線をジリジリ送ってくる。
こーわーいって、ソレー!!
心の中で叫びながら、俺はできるだけロッセから顔を引き離した。間近で見るラベンダー色の瞳は透き通ってて、表情無いとサイボーグ的で不気味だ。
俺はやけになりつつ、ロッセの次に懸念していたことをボソボソと横向きながら言った。
「今度の日曜日に女の子デートに誘ってて、どこ行ったらいいかロッセに相談しようと思ってただけだよ」
「そんなことか」
途端に興味を失くしたロッセは俺から離れ、「食事にしよう」と立ち上がる。
「だから言っただろ――っていうか『そんなことか』とはどういう意味だよ!」
俺の抗議むなしく、まるでなにも聞こえてないかのように、さっさとキッチンに行ってしまった。
「……オイ」
あからさま過ぎダロ。さっき言った『ココロも親密』はどこ行ったんだ。
こうなったら徹底的に問い詰めてやると俺は痛む腰にムチ打ち、四つん這いにお馬さんパカパカ移動しキッチンの椅子に座った。
「ねーロッセー、教えて♪」
顔は満面に笑みを浮かべ、米神に若干青筋立てながら可愛らしく言ってみる。
「私に相談するようなことか」
「だってさー、一応ロッセはホストだろ? そういうの詳しいんじゃないの」
ロッセは冷蔵庫を覗いていた頭をあげ、俺にうんざりといった顔をした。
「本人に聞くのが一番だ。私はその女に会ったこともないんだぞ。分かるわけがない」
「そりゃそうだけど、こう、アドバイス的なことが聞きたいのよ」
「だったら相手も自分も楽しめるようなことを考えればいい」
「女の子も俺も?」
軽く頷かれる。
「そうだ。セイタにとって初めてのデートなんだろう?」
「うん、そうだけど……?」
「結果がどうあれ、お互い心底楽しめたと思えるようなデートなら、いい思い出になる」
「思い出……」
「初めては一度きりだぞ」
そう言ってロッセの視線が冷蔵庫に戻ったのを見やり、テーブルに肘をついて思いを巡らせる。
思い出かぁ……そうだよなぁ。
初デートだっていうことを忘れてたわけじゃないんだけど、思い出がどうというより、もっと即物的なこと考えてたよ……。
どんなところ行けばいいムードになれるかなとか、距離近づけるかなとかさ。どのタイミングで手つないで肩寄せて、あわよくばチューまでもっていけたらサイコー、みたいなさ。
「そうだよなー、やっぱオトコ目線ばかりじゃダメだよなー」
確かにこればかりはロッセに聞いてもわからないはずだ。まずは有奈ちゃんと相談しないと……。
ブツブツ零しながら考えてると、「うまくいったら紹介しろ」と言ってロッセは取り出したネギやかまぼこを刻み始めた。
軽やかな包丁さばきに、今日の朝兼昼飯はチャーハンかなと勝手に気分が盛り上がる。ロッセは謙遜するけれど、ヤツのつくる料理で今のところ外れはない。まぁ、とくにずば抜けたものもないんだけれども。
それでも俺はウキウキしつつ、自分がまだ裸だったことにはたと気づき、飯の前にまずシャワーにしようと風呂場に向かった。鼻歌交じりに蛇口をひねる。
「ついでに歯も磨いちゃえ」
洗面所から歯ブラシと歯磨き粉入りのカップをとると、シャコシャコ磨き始めた。
――デート前に一度有ちゃんと話するかぁ。
なんだかんだ言いながら、ちゃんとアドバイスをくれたロッセに感謝しつつ、俺は口のなかをシャワーで一気に流した。

そして、手際よくカラダを洗って風呂から出た俺は食卓を見て目を輝かせた。
「いただきますっ」
メニューはやっぱりチャーハン。スプーンを取り上げると丁寧に手を合わせ皿をかき込む。
「落ち着いて食わないか」
――だって温かいうちに食べたほうがおいしいでしょ。
ロッセを見上げれば苦笑で返された。
「お前を見ていると子どもたちを思い出すな」
俺は米粒をごくんと飲み込み、横目ににらんだ。
「子供っぽいですよ、どうせ」
今度は嫌味じゃなく小さな笑みを零し、ロッセはスプーンでチャーハンをつついた。
「当たり前だが、こっちに来るようになってからあまり会えていない」
目の当たりにした、コイツらしくないフニャッとしただらしない笑顔。
「かわいいんだ」
「もちろんさ」
目を細めて視線を窓に滑らせる。
「とても素直で……、それが楽しくもあり怖くもある」
「怖い――?」
「ああ。善悪の判断がつかない年頃ばかりだ。なんでもかんでも砂漠に落ちた水のように吸収するから」
「そういうこと……」
ロッセは不意にさみしげな表情をつくって、でもすぐに短く息を吐いて元に戻すと、俺に視線を据えた。
「土曜は確か講義をとってなかったな」
「うん、そうだけど――?」
「バイトは?」
「晩からだよ」
「そうか……」
ロッセは少し思案して口を開いた。
「では、夕方まで時間を空けてくれないか」
「いいけど……なんかあるの?」
「買い物につき合ってくれ」
「買い物?」
「大量にあるから手伝ってほしい」
「なに買うのよ」
「行ってからの楽しみだ」
だからなによ……。ホストと言えば身だしなみが重要だし、やっぱ服とか時計とか――? でも、無駄遣いを極端に嫌うヤツだしなー……。
目の前で含み笑いする怪しい男をにらみつつ、俺は最後の一口を胃袋に放り込んだ。
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