HAPPY SWEET ROOMT------01 それはタケノコのように

HAPPY SWEET ROOMT

01 それはタケノコのように

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 入学まであと数日と迫ったところで、無事入居手続きを済ませ、電気や水道など通して、いざ新居に住むまでになった。
 新しいベッドに新しいシーツカバー、新しいクッション。そして奮発してソファも買ってしまった。部屋の内装もモノトーンに整え、自分の実像とは少し離れているが、大人の男の部屋をテーマにコーディネートした。
 そして、今日が初泊まり。自分の部屋になったのに泊まりという表現はおかしいかもしれないが、まだ居心地がいいわけではないし、なんせ初めての一人暮らしだ。多少ドキドキして当たり前だろう。引っ越しで疲れたので早めに布団に入ったものの、気持ちが高ぶってなかなか寝付けないでいた。時計を見るとまだ11時を指している。眠れぬまま、少しでも寝安い態勢を取ろうと寝がえりをうった。
そのとき――――。
「――――へ?」
急にソファの前に敷いていたラグが浮き上がった。その下から強烈な光が四方に飛び放たれる。
「うわわわっ!!」
俺はなるべくソファから離れようとベッドの端、壁際に身を寄せた。
もうしかして『出た』のか!? 初日からいきなりかよっ!!
しばらく見守っているとラグが部屋の端に光によって投げ飛ばされ、ますます光が強烈に部屋の中を射した。よく見れば、それは単なる光ではなく模様を描いており、円陣に見知らぬ文字がいくつも浮き上がっている。
「――――――ひっ!!」
 一層、光が強くなった途端、円陣の中から髪の毛の束がぬっと出てきた。
 や、やっぱり幽霊が出るんだっ。
 信じられないような光景にベッドの隅っこで毛布をかぶりながら、それでも目を離せなかった。髪の下から肌色が覗き、さらに目、鼻、口、と現れ、毛の束かと思っていたものは、どうやら頭だったようだ。おそらく人間だと思われる身体が次々と現われてくる。俺はそれを恐怖というよりかはただただ信じられない気持ちで茫然と眺めていた。
 数分かからないうちに足の爪先までが円陣から抜け出し、俺はそいつを見上げた。かなりの長身らしい。並んでみなければ正確には分からないが、たぶん190センチ以上あるんじゃないだろうか。顔は亜細亜と欧米のいいとこ取りをしたような容貌だ。整い過ぎているために顔を見ただけでは、男か女か判別しがたい。ただ真っ平らな胸に、鍛え上げられた筋肉、女にしては厳しい雰囲気に、男だとすぐ分かる。均整のとれた体には、服というには粗末な布のようなものを全体に巻きつけている。出来そこないの服をまとってはいるが、男の放つオーラはどこか神々しさがあり、貴金属を身につけていないのにもかかわらず、十分に美しく華々しさがあった。
 え? 表現が仰々しいって? 文学部なのよ、俺。
男がふいに口を開いた。
「お前は誰だ」
お前は誰だ、だなんて、あんたのほうが十分ずっと確実に間違いなく怪しいし不法侵入者なんだけどさ。うーん、とりあえず日本語は話せるみたいだし、意思の疎通が可能でよかった。
「普通はお客さんのあんたから名乗るもんだと思うけどね……。まぁいいや、俺は紺野静太。今日からこの部屋の住人なんだ」
「――――この部屋に住む者はころころ変わるがお前もいったいいつまでもつだろうな」
 男が皮肉げに口元を歪めた。さっきの光はいつの間にかなくなっていたが、月明かりがあるので部屋の中はわりと明るく、表情を読むのに苦労はない。
「もしかしてここの住人が消えるっていうのはあんたのせい? 俺は何されてもこの部屋を出ていくつもりはないからな」
 俺が腕を組んで威嚇するようにそう言うと、男はまじまじと俺の顔を見つめてきた。
「私を見て驚かないのか?」
「もちろん驚いてるよ。さっきの光る丸はなんだとか、なんであんたはそっから出てきたんだとか、そしてどっからやって来たんだとか―――。でも、そんなことより俺にとってはどうやってあんたをここから追い出すかのほうが重要だからね」
「――――――よく短時間でそこまで自分を強引に納得させることができたな。いや、納得というよりかは物事をいいように、しかも一面的にしかとらえられないといったところか……。単純というかなんというか、めでたい奴だな」
 古代外国人風男は呆れたようにラベンダー色の瞳を細めた。
 確かに能天気で楽観的ですよ、俺は。あんたの言うとおりポジティブ思考ですよ。でも、そんなの―――。
「当たり前。これから新しく大学行って一人暮らしでなんでも一人でこなしていかなきゃならないのに、こんなところで躓いてられないでしょ」
男はふむと口元に手をやり、なにか考えるような素振りを見せたが、すぐさま考えることを放棄したように息をついた。
「まぁ、お前がここに住むとて私には害はない」
男はそう言いながら、肩と腰に巻いていた白布を取り去った。一枚布でできたそれを脱いだことで男は一気に全裸になる。圧倒的な男性美をもった身体だと見てはいたが、予想通りアソコも立派だった。比較したくはないのに、自分のモノ思い出してしまい、不覚にも赤面してしまった。
 デケェ……。
 じろじろと俺が見る視線を気にも留めず、男は堂々と備え付けのクローゼットに向かい、扉を開け、その中からスーツを一着取り出した。
「それ、あんたのだったの?」
 入居前からなぜか数着置いてあったのを、処分していいか大家さんに聞こうと考えていたのを思い出す。
「ああ、仕事着だ」
「仕事着? あんた留学生っぽくないし、かといって働いている風じゃないし……。そんなことより、その服からして明らかに現代人じゃないだろ。働き口なんてあんの?」
「…………なにげに酷い言いようだな。もちろん仕事着と言ったのだから働いていると考えて当然だろう」
男は言葉にそぐわず不服そうな面影はなかったが、気障ったらしく片眉を上げた。
「何の仕事?」
「ホストだ」
「………………………………。」
「その沈黙はなんだ」
「ビジュアルはともかく、普通に考えて今の女の子と会話が成立するか疑問だね……」
男は手に取ったスラックスを徐に穿きだした。
「私が話さずとも女が一方的に話してくれるのでな。私は相槌専門」
男前は鑑賞されるだけ努力が少なくていいねぇと卑屈に思いつつ、でも服を身につける姿は男前だろうと間抜けだなとほくそ笑む。
「今から仕事?」
「そうだ。―――と、今何時だ」
男はくるりと部屋を見渡し時計を見つけると『もうこんな時間か』と顔を顰めた。上半身裸でスラックスに手を突っ込んで取り出した高級そうな腕時計を、時刻が正しいか確認してから腕に巻きつけた。
「出勤にはちょっと遅いよな」
「ああ、これから出るとなると遅くなるな」
男は少し考えてソファに腰を下ろした。
「まぁ、スタッフには明日から出勤すると言ってあるし、今日は休んでいいか……」
そして『お前もいることだし』と俺を見て、にやりと笑った。俺はなにやら背筋に空寒いものを感じながら、無理やり笑い返した。
「だったら明日でいいんじゃない? それにさ、ちょっと話し合いたいこともあるし……」
「話し合う?」
「そ。ここは俺の部屋だし、すぐとは言わないけど、できれば早いうちに出ていってほしいし」
 男の眉間に皺が寄ったが、俺はそれを気にすることなく、彼女(近い将来できるはず)とのエロ生活を思い描いていた。
「悪いがこの部屋を出ていくことはできない」
俺は甘い想像を打ち切り男に噛みついた。
「なんでだよ!? だって俺の部屋だろっ」
「落ち着け。………確かにすぐには私の存在を受け入れられないか。となると―――」
男ははぁと盛大にため息をついた。
「私の世界のことから説明しなければならなくなるな」
「ワタシノセカイ?」
「棒読みにしなくてもお前の予測に間違いない。私はこことは別次元の世界から来た」
 古代からのタイムスリップならまだ今後科学の発達によって可能になることもあるかと思えるが、別次元って―――。世界が二つあるっていうこと? まさか……。
 俺は目の前の男に真偽を確かめようと見つめてみたが、生憎その顔はうそを言っているようには思えない。男は真剣そのものの表情で俺の不審気な視線を静かに受け止めていたのだから。
話し合うって言ったけど、すでに俺の許容範囲越えてるわ。
俺はもう諦めたとばかりに身体を後ろ向きに投げた。ベッドが衝撃でバウンドする。
「おい、お前が言い出したのを早々放棄するな」
「って言われてもさ………」
「では深く考えずに私をここに住まわせたらいいだろう」
「それは無理!!」
 ガバッと身を起こした。
「だったら話を聞け」
男は俺がむぅと頬を膨らませたのを一瞥で無視し、ソファに腰を下ろした。長い脚をゆっくり絡めるように組む。
「そうだな、分かりやすく簡単に言うとすれば……」
「―――すれば?」
「この部屋が私の世界とお前の世界を結ぶポートになっているからだ」
「ポート……」
「そうだ。この部屋でのみ、向こうとこちらを行き来することができる」
「………まるでノビタ君の机」
 男は言っている意味が分からないと首を傾げたが、そんなこと知ったこっちゃない。ポートがなんだってんだ。元の世界で普通に過ごせばいいだろ。なんでこっちまで来てホストやってんだよ。あっちでホストをやれ。俺のささやかな彼女との夢を壊すなよ。
「俺はこの部屋で彼女と過ごしたいんだ。あんたは邪魔なんだよ」
「彼女? いるのか? とてもそんな風には見えないが……」
「―――っこ、これからつくるんだよっ」
「ほう」
 男はそれまでの深刻な表情を奥に引っ込め、にっこり悪魔的な笑みを浮かべた。
「今は、いないのか?」
「―――もうすぐ、できる予定だ」
 『今は』のところで念押しするように強調されたのに多少ムカついたが、それでも俺も同じく笑みを浮かべて言い返してやった。
「それならば、彼女ができるまで私がお前の相手をしてやろう」
「あんたが? 俺の?」
 あんた男だろ―――。そう言おうとしたそのとき、男がすっくと立ち上がり、裸足でひたひたと俺に近づいてきた。腰をかがめ顔を覗かれる。思いがけず整った顔が間近によってきたのに、びくりと体が後ろに傾いた。
「私では不服か」
「―――不服も何も……うわっ」
 急に男に肩を掴まれ、後ろに押し倒された。恐る恐る見上げれば、色気たっぷりに微笑まれる。紫色の瞳がゆらりと煌めき、沸き立つ制圧オーラにくらくらした。
「これって、もしかして―――」
「セックスの相手をしてやる」
 認識したくはないが確認したくなって、震える声で無理やり聞いてみたが、もらった回答は予想通りで、顔から血の気がざっと引いた。
 この体勢から言って絶対抱かれる方だ―――!!
「い、いやだ!! 無理だしっ!!」
「まだ何もしていない」
 男は何もしていないと言いつつ俺を離す気配もなく、もがけども暴れども押さえつけられた肩を動かすことができない。自由にならない腕の代わりに足をバタバタさせるが、腰の上に圧し掛かられてしまった。
「お、俺まだ童貞なんだっ! だだ、だからつまらないからっ」
「なんだ童貞か。それはそれで楽しそうだ。優しくしてやる」
 涙声でせいいっぱい言い募ったのに男は意にも介さず言ったとおり楽しげだ。
 まだ、女の子ともエッチしてないのに〜〜〜っ。
 悔しくてまたもや体をバタつかせるのを再開するが、175センチある俺の身長よりはるかにでかい男のウエイトにはまったく敵わない。それでも体を許してなるものかと、ぎりっと男を睨みつけた。
 男は苦笑しながら顔を俺の顔の傍まで近づけ、眼の端に溜まった涙を指の先で優しく拭った。
「あとで散々啼かせるというのに、今からそんなに泣いてどうする」
俺が反論しようとして開けた口の隙間に男がぬるりと舌を滑り込ませてきた。
「っ! ……ふ、ぅん」
 ディープキスも初めてだって―――!!
 また涙が溢れそうになる。けれども男は俺の気持ちなんか慮ってくれるわけがなく、くちゅくちゅとわざとしか思えないような音を立てて、喉の方まで舐めとってくる。顔を背けたいのに、肩に置いてあったはずの男の手が、今は俺の顎と項をしっかり固定していてまったく身動きがとれない。なぜか力の入らない手で辛うじて男の腕を掴むという、抵抗にも入らない小さな拒否をするのみで。次々送られてくる唾液を飲み切れずに口の端から零れ落ちた。
「んんんっ。ふ、ぁああ………」
腰が内側からまるでビロードで撫でつけられているようにざわざわする。
「気持ち良さそうだ」
 男が僅かに口を離した隙に笑った。反論しようとするがすぐさままた口づけられる。何度となくキスをされているうちに体からほぼ完全に力が抜けてしまった。男の腕を握っていた手も力尽きてシーツの上に投げ出した。
「なんだ、もう降参か」
 男は嬉しそうに凶悪的に微笑んだ。
「……な…んで、こんな………」
「感じてしまうかって?」
 俺は思わず頬がかっと熱くなるのを感じて、肩をずらしてシーツに顔を伏せた。背後からくすくす笑い声が聞こえてくるのに、心持ち顔を上げてぎろりと睨みあげた。
「―――なんだよ。経験豊富だからってさ」
「それもあるが、経験だけじゃない」
 経験豊富じゃなかったら―――。もしかしてクスリ……とか? 俺は頭が真っ白になって、ぱくぱく喘ぐように口を動かした。それを見ていた男が今度は大きく声を出して笑っている。
「お前は表情が豊かで、考えていることがすぐに顔に出るな。何を思っているのか丸分かりだ」
「じゃ、じゃあやっぱりっ」
「生憎ご期待に応えられず申し訳ないが、クスリは使ってないぞ」
「だったら―――?」
「私の名は神の祝福を受けているからだ」
「………祝福」
祝福っていう名前の新しいクスリみたいなもの、か?
「私はアンテロッセという名だが、愛の神アンテロスに因んでいることにより、身体に、とくに体液に恩恵がある」
「………………………理解不能だけど、なんかクスリより如何わしそうに聞こえる」
「神秘的と言え」
「…………………。」
 俺がしらっとした目で見ると、アンテロッセはごほんと咳払いした。
「………とにかく、私の体液には――――媚薬効果がある」
「へー媚薬ねー。」
 ふむふむと頷きかけたが―――。
「って、クスリと同じじゃん!!」
「お、気づくのが早いな」
 馬鹿にしやがって。きっと睨むがアンテロッセはどこ吹く風、にこにこ微笑みながら、俺を抱き起こして手をとった。そして自分の首へ回す。アンテロッセとの距離がまたぐんと縮まった。額をこつんと重ねられて嫌々見返すと、色気むんむんの瞳できらきら見詰められる。絡めた腕によって自然と抱きつくような形になり、アンテロッセの乙女視線も相まって、恥ずかしさを覚えてこいつの喉元に顔をうずめた。
「さて、そろそろキツイだろう、ここ」
アンテロッセは俺のパンツの中に手を入れてきた。
「え、ちょっと!」
 なんだかズキズキすると思っていたソコははち切れんばかりに勃ち上がっていた。アンテロッセの手によって引き出され、ぶるりと震えながらスウェットから頭を出す。
 キスしただけで――!?
 先走りが零れていたのを茫然と眺めた。アンテロッセは構うことなく、やわらかく握った手を上下に動かし始めた。時折、親指で透明なそれを先端の穴に塗り込めるように擦られて、たまらず背中がびくんと戦慄いた。
「やぁ、あ、あ、あぁああ」
 あまりの快感にあえぎ声しか出なくて、頭をぶるぶる振って止めてほしいとジェスチャーしたけど、どんどん追い詰められるように手の動きが速くなる。そしてもう片方の手がシャツを捲り上げ、乳首をこりこりなぞられた。
「どうした。イッテいいぞ?」
 囁くようにねっとり耳朶を嬲られながらそう言われて、もう限界だった。
「う、うわ、ぁあああああ…」
喉が大きく仰け反り、アンテロッセが『おっと』という声と共に、肩を支えて倒れ込む寸前で支えてくれた。イっても快感はとどまらずにガクガク全身が痙攣した。
「そんなに好かったか?」
 アンテロッセが仰け反る俺を追いかけるように唇を重ねてくる。うっすら目を開けると、アンテロッセは切羽詰まった顔をして、俺の腰を何度も摩った。ああ、と思って下に視線を移せば、アンテロッセのスラックスのファスナーはいつの間にか外されていて、ただでさえ大きなアンテロッセの下肢にあるモノが隆々となっていているのが見える。俺が熱い眼差しを送っていると、アンテロッセの手が俺の尻へと回ってきた。
 もしかして、そのデカブツを俺の尻に―――。
まさか、とアンテロッセを窺うように観るとやる気満々の笑顔で、冷や汗がどっと出た。
「ちょ、と…、たぶん無理じゃ……」
「――大丈夫だ。気持ちのいいことしかしない」
そう掠れる声でアンテロッセは言い放ち、少し俺から体を引き剥がした。そして自分のモノに溢れている透明な液を指先で掬い取り、俺の尻へと塗り込む。
「アンテロッセ! き、きもちわるいよっ」
「………私の名を呼んだな」
アンテロッセが嬉しげに微笑む。
 そ、そんなことより俺の尻がぁ…。
「私のことはロッセで構わない。アンテロッセだと長たらしくてセックスの時に呼びにくいだろう」
「呼びにくいって――! それ、それより、尻っ」
 アンテロッセは俺が身を捩っているのにもかかわらず、精液で潤んだ穴の周りをくりくり辿っている。
「唾液よりこっちの方が濃いのでね」
 なにがどう濃いんだーっ!! 叫びたくなるが、口から出てくるのは喘ぎ声ばかりだ。
「さっきも言ったが催淫効果があるから、ほとんど痛みは感じない。すぐに柔らかく解けてくるから」
―――ほら、もう三本も入った。アンテロッセが笑みを含ませながら囁く。顔がイイだけじゃなく声も腰が砕けそうな美声で、それだけで甘い溜息をついてしまった。
「もうそろそろ、か。少しキツイくらいが私の好みだからね」
 アンテロッセはフフと笑ってゆっくり俺を押し倒した。
「い、痛くしないって――っ!」
「もちろんだ」
 アンテロッセは肉を俺の尻にあてがい、ずんと進んできた。
「い、やぁああああああっ」
 俺はさっきイったばかりだというのに、ハタハタ腹の上に白い迸りを散らした。
「存外に可愛いな」
 アンテロッセは自分の腹に俺のが付くのも構わず、ぎゅっと抱きしめてきた。そのまま、腰を前後に動かす。
 けっこうなモノが入ってきているのにもかかわらず、アンテロッセの言うとおり強い圧迫感はあるが痛みはあまりない。痛みがない代わり全身が快感だけに支配される。しかも、いつもならイったらすぐ過ぎ去る射精感が全然収まらなくて………。
「ま、待って……。まだイったばっかで――!」
「また? もう?」
すでに元気になっている俺のモノを爽やかにニヤつきながら擦った。
 だから、待てってぇえええ。
 けれど、もちろん(?)アンテロッセがやめてくれるはずがなく、あろうことか腰のスピードが倍増しした。
「あ、あ、あ、ぁあ…っ」
 あそこからいやらしい水音がぐちゅぐちゅ聞こえてきて、しかも俺の甲高い声も相まって、恥ずかしすぎて気絶したくなる。
「いやだぁ…」
 もうイキたい。こんなのおかしい! 初めての凄まじい感覚にもう神経ガタガタ…。
「出したいか?」
 俺は恥も忘れてうんうん頷いた。アンテロッセもきつく眉を寄せて『わたしもだ』と苦しげに言った。また頷き返す。
「セイタ……。私の名前を」
「な、なまえ? ―――アン、ア、ンテロッセ……」
「もう一度っ」
「――――ロッセ!」
ロッセはニッと笑い大きく腰を引いたかと思うと、俺の中に捩じ込んできた。
「う、ああああああああん」
「―――――――っ!」
 あまりに快すぎて腰が浮き上がり、思いっきりイってしまった。胸の方まで白濁が飛び散り、仰け反った頭のてっぺんからベッドに沈みこむ。ふと目を開ければロッセがイった後の快感に包まれて、すごく色っぽく顔を火照らせていて、そのあまりのカッコよさに自分が何かに落ちたのを感じた。
 ロッセは息を荒げそれでも俺が見つめていたのに気づくと微笑み返してくれた。俺の頬が一気に熱くなる。
「初めてはどうだった? ご期待に添えられたかな?」
「…………………ジュウブンです」
 照れてうんざり言った俺にロッセはハハハと快活に笑った。
「それで? 同棲は認める?」
「同棲って――――っ!」
「なんだ、まだ足りないのか?」
 ロッセの手がまた危ない動きをし出したのを俺は腕を突っ張って必死に止める。
「そ、そういうんじゃないっ!!」
『そうか?』とロッセがどこか残念そうに言う。
「何がダメなんだ。セックスの相性はいいし、お前、私のことが気に入っただろう?」
 はぁあああ!? 俺は顔を真っ赤に目を剥きだした。
「ききき、気に入ったって!?」
「ああ、誤魔化すな。そんなものはすぐ分かる。さっきも言ったが私は愛の神の恩恵を受けている。恋愛事には鋭いつもりだ」
 そう真面目に言ってのけたロッセに俺はがっくり項垂れた。あーそうですよ、図らずもあんたのことちょっとはカッコいいとか思っちゃいましたよ。
「ってか、あんたホストだったっけ?」
「ああ、そうだ」
 神様がどうのというのはあんまり理解できないけれど、ホストやっているということは、相手の心理を読むことに長けるのは分かるような気がする。
 顔もいいし、セックスうまいし、恋愛事には強いとか言ってるし―――。モテるんだろうなぁ……。
 俺がじっとロッセを見ていると、『なんだ』と目で聞いてきた。
「ところで、なんでホストをやってるの?」
「ああ、ちょっとした息抜きだ」
「わざわざ、こっちの世界で?」
 しかも、ホスト……。けっこうハードな仕事だって聞くけど。
「そうだ」
「なんで?」
ロッセははぁとため息をついた。
「立場上、私の世界ではホストなどできないし、恋人をつくることさえむずかしい」
「どういうこと?」
「向こうでの私の職務は神官だ」
「神官って、聖職者だよね? ………そんなんでいいの?」
「よくないだろうな、普通は」
「―――だったら」
そこで未だ入ったたままだったロッセはずるっと出ていくと、俺の隣にごろんと横たわった。天井を静かに見上げる。
「いくら聖職者とはいえ無感情でいられるわけがない。誰かとつき合ったりセックスしては駄目なのか?」
「そういうイミで言ったんじゃ…」
「私は愛の神に恩恵を受けているために女性以上に恋愛体質だ。であるにもかかわらず聖職者。誰かに心を奪われるわけにもいかないし、しかも遊んではいけないとなると欲求不満で倒れそうになる。だからだ」
 ロッセは無表情で、それがなんだかより一層寂しそうに見えた。
「それで、ホスト?」
「金になるしね」
ロッセは俺を抱き寄せてキスを求めてきた。俺はちょっと悲しくなってロッセの背中に手をまわして抱きしめた。どんどん深くなるキスにまた翻弄される。夢中に必死にキスしてくるロッセに俺も同じように応える。
誰に恋することもできないなんて俺には考えられない。ロッセにこんな風に真剣に抱かれてしまったら相手は皆きっと本気になってしまうだろうに……。でも決してそれに応えることはできないロッセ。辛い経験をしてきたんじゃないだろうかと思うと、胸がぎゅっと締めつけられた。
「同棲しよう。家賃は払う」
 ロッセが重い雰囲気を払拭するようにごく軽く言った。
「ロッセのことだから体で払うなんて言いそうだな」
 茶化してそう言い返せば、俺に抱きついてくる男前はくすりと笑った。
「バレたか」
 バレバレだよ。そう笑い合って、笑ったままキスにもならないのに、大きく上げた口角のまま唇を重ねる。歯が当たって痛いと、また笑い合いながら。
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